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鬼姫に彼氏を

9

「ただいま……はあ、疲れた」

 帰宅し、自分の部屋に戻るとどっと疲れが押し寄せてきてそのままベッドに倒れこむ。

 精神的疲労によっても肉体は疲労するんだということを確信し、俺はそのまま眠ろうとする
……が、一階から母が呼ぶ声がする。

 眠いので無視しようと決めて、無視し続けていると母は俺の部屋のドアをバンと開け、しまっ
た! と思った俺が起き上がる前にヒュンと飛んで背中にジャンピングかかと落しを決めて
くる。

「いってえー!なにすんだよ!」

「さっきから呼んでるのにこないからでしょうが!母の呼びかけに答えず寝ている息子にかか
と落としは基本です」

「そ……そんな基本があってたまるか!」

「とにかく……瑞樹ちゃんが玄関にいるから呼んでたのよ、女の子を待たせるもんじゃないの
!」

「い……いいよ、俺……すごく眠いし、後にしてくれって言ってくれない?」

「後……じゃないでしょ!」

 身体をクルリと回転させて母のハイキックが顔面に炸裂する。 すでに四十も近いはずなの
に体重の乗せ方が上手い……。 そして俺は痛い……。 

「イッテェ……普通母親が息子にハイキックをぶち込むか?」

 そんな俺の言葉を無視して母は俺の服の胸倉を掴み、頭をガクガクと揺らしはじめる。

「いいこと……女の子が来てくれたのに応対しないなんてのは愚の骨頂!だからお前はアホだ
というのだーーーーー」

「そ、そんなどっかの師匠みたいなこと言われても……」

「いいこと……息子よ、幼馴染が家に来てくれる……そりゃテレルわよ、私だってそうだ。で
もねテレてしまってこんな美味しいシチュエーションを逃してしまったらあんたはきっと後悔
する、というか絶対に後悔する、っていうか私がさせる。だからこそいま勇気をだして進みな
さい。母さんはそれを見ててあげるわ、あなたが失敗したとしてもそれはそれでいい経験にな
るはずよ……さあ行って来なさい!」
「……いや、そんな大したことではないと思うんだけど」
「だったら……行って来なさい。彼女、家の前をウロウロしてて長い間、外にいたみたいよ?
見かねて私が玄関に引っ張ってきたんだけど」

「……わかったよ」

「それでこそ我が息子よ……」

 母は時々良くわからないテンションになることがあり、そういう時は逆らわないほうがいい
という息子として長年の経験がある。

 なので渋々俺は階段を下りて玄関に立っている瑞樹に挨拶した。

「……よお……」

「こ、こんばんわ……」

「…………………」

 挨拶したあとそのまま二人とも黙ったままでいる。

「そ、それで……その……なんか用事があったんじゃないか?」

 意を決して俺から切り出す。

「い、いや……あの……ケガの調子……どうかな……って思って……その……大丈夫?」

「あ……ああ、別に大したことじゃないから別にいいよ」

 なんか俺まで緊張している。 何故だ?

「そう……なんだ。その悪いと思ったからさ、あ……謝りたくて……ゴメン」

「べ……別にいいよ、気にするなって」

「う……うん、それじゃそれだけ言いたかっただけ……だから……また明日ね」

「お……おお……それじゃまた明日……な」

 瑞樹はそのまま後ろを見ずに玄関から外に出て行った。

「ど、どうしたんだあいつ?」

 後ろを振り返ると母が階段を昇りきったところで座りながらこちらを見ている。

「な、なんだよ!見てたのかよ!」

 母は何故かあせる俺をじっと見つめて鼻で笑いながら、
「まだまだね」

 とつぶやいた……。




red18
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