放送終了後、すぐに体育館は野次馬でいっぱいになった。 野次馬達は体育館の壁を四方ぐ
るりと囲んでまるで上から見るとリングのように見える。 そしてそのリングの中心に二つの
集団がいた。
「周防よ、もはやお前はかつての親友ではない、神の領域を侵した愚か者だ」
「何をわけのわからんことを……そっちこそ勝負の約束反故にして小林君を脅迫したことは許
されないぞ」
「脅迫?何のことだ?我々はそんなことはしていないぞ、第一貴様こそ我々の宝物庫を襲
いながら懲罰と称しておいて何を言う!」
「宝物庫……?懲罰……?何のことだ?」
「もはや語る言葉はない!ただただ厳かに決着をつけるぞ」
「ふん!もうすぐ相馬瑞樹さんが来る。お前らの惨めな負けっぷりをみせつけてやるさ」
「それはこちらのセリフだ……いくぞ」
両軍が身構える。 臨戦態勢の状態に入り、両軍とも大将が命令を下せば全員動くだろう。
場に緊張が走る。 両軍の大将にも緊張の顔が走る。 そして二人は……一斉に……
「かかれ……」
「ちょっとまったぁ!」
急に声をかけられた周防達がズッコケル。
「だ、誰だー!」
野次馬達も一斉に声のした方を見る。
そこには…………相馬瑞樹がいた。
華奢な肩を上下に動かして大きな目は見開いていて白くて陶器のような肌には少し赤みがさ
している。 うっすら汗が滲んだ肌には栗色の髪がいくつか張り付いている。
どうやらここまで全速力で走ってきたようで、はあはあと軽く息を切らしていた。
「おお……瑞樹君、僕達の勝利を見に来てくれたのかい?今から奴らと決着をつけるからそこ
で見ていて……たらばっ!」
周防の顔を見ると思い出したような顔をして瑞樹はつかつかと歩き出し、周防の顔に一発腰
の入ったパンチを入れた。 周防の身体がズルリと前に倒れる。
「……ふっ……ふっははははっ!どうやら瑞樹嬢は我々を支持したようだな!愚かなり周防っ
!神はやはり我々を…ぐばはっ!」
得意げに高説をたれている剥離に瑞樹が振り向きざまの右フックを入れた。 剥離はそのま
まバタリと仰向けに倒れてぴくりともしない。
どうやら瑞樹のパンチはかなり効いたようで両軍の大将二人は体育館の床に仲良く倒れ
てしまっている。
「おい……これ……どういうことなんだよ?」
「いや……わからねえよ、なんで相馬さんは二人とも殴り倒したんだ?」
その言葉を聞いて瑞樹がきっと周りをにらみつけて大きく息を吸う、そして目一杯息をため
て、一気に吐き出した。
「どいつもこいつも、私と付き合いたい?神様扱い?いい加減にしてよ!私は私!誰とも付き
合う気は無いし神になんてなりたくも無い!勝手に行動して……私の為?大きなお世話よ!好
きな人くらい自分で見つけるわよ!だいいち……私が好きなのは……好きなのは……斉藤和樹
……和樹だけなんだから!」
顔を真っ赤にしてあらん限りの大声で叫ぶ。
いきなりの展開にこれまたいきなりの告白に誰もが言葉を失った。
それは目が覚めた周防も剥離も……そして両軍のメンバー達も誰もがそのあまりにも真剣で
豪快な告白に顔を赤くしている。
「すげえ……なんていうか……すげえ」
「この状況でそんなこといえるなんて以外に相馬さんて純情なのかしら?」
「す、すばらしいよ……瑞樹君!これが……これこそが僕の求めていた青春の一ページな
んだよ!」
「不肖、この剥離忠信……自分の蒙昧さを只今知り申した。あなたの純潔を守ろうなどとは…
…あなたは美しかった…でも衆目の前で愛の告白をしたあなたはさらに美しい……もう私には
あなたの姿がまぶしい!」
ざわざわと野次馬達が騒いでいるところにもう一人の関係者……いやこの舞台の最後の
出演者が入ってきた。
そう……斉藤和樹だ。
まるで映画のようなタイミングで主役は入ってきた……。 ヒロインに何事かを伝えるため
に……。 ヒロインも主役に伝えるために……。