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鬼姫に彼氏を

30

「実は……」

 俺は彼女に全てを話した。 彼女が引っ越したあとの瑞樹のこと……先輩達のこと……そし
て二週間前の体育館のことまでを全て……。

 彼女はふんふんと嬉しそうに、話を聞いて、俺が話し終わると、

「それは彼女も怒るよ……私も怒ると思うな」

「ううっ、それは俺もわかってるよ……あんまり言わないでくれ」

 我ながら情けないがここ二週間のつらさで思わず弱音をはいてしまう。

「でも……瑞樹ちゃんも問題あるよね、それくらいでカズ君のこと無視していじめられて
るのを黙認しているだもん」

「でも……俺も悪いし……」

「だーめ!向こうが悪いときは悪いと言わないと駄目だよ?それにそこまでいったらいじめと
同じなんだよ、それは……」

「いじめって……オーバーな……」

「ううん……オーバーじゃないよ!いじめは絶対駄目なんだから……。可愛そうだね、カ
ズ君……私が守ってあげるよ」

「え…誰を誰が?」

「私がカズ君を」

 突然の提案に驚く、この女は一体何を考えているんだ?

「そ、それは……どうも」

「いいえ……どういたしまして」

「……………」

「……………」

 駄目だ沈黙に耐えられない。

「その……どうやって俺を守る……の?」

「簡単よ……私とカズ君が恋人同士になればいいのよ!」

「ああ……そんなことなんだ、本当に簡単だね……っておい!」

「わあ……ノリツッコミだね!なんかカズ君、関西人みたいだ~」

「いや……そうじゃなくて!なんでいきなりそんな話になってんだよ!今日再開したばかりじゃ
ん!十年ぶりじゃん!それに……」

「それに……なーに?」

「いや……それに……」

 一応瑞樹に告白されたわけだから返事を返さないと……なんて言えるか! 大体そんなこと
できるか!

「別に……深く考えないでいいんだよ?私は……カズちゃん好きだったんだよ?それにと
りあえず付き合ってみればいいじゃない、それとも私とはイヤ……?十年たってカズちゃんの
好みじゃない?」

 悲しそうに俺の顔を見つめる。 その大きな目にうるうると涙をにじませて……。 さらに
目の下にある泣きボクロがひどく魅力的で……。

「いや……別に……嫌いじゃない……けど……でも十年ぶりだし……」

「だからとりあえずってことでいいじゃない?それでお互い嫌になったら別れればいいん
だし、それにカズちゃんも学校で一人で外でも一人なんて嫌でしょ?一緒に遊ぶ人が増えたと
思って……ね?」

「うっ……」 

 確かにかつては友達百人できそうだった俺が今じゃ宿敵百人できちゃった状態で学校に行っ
て、外では緊張しながら一人なんていう状態は御免だ。

 それにこんなことになったのは瑞樹が悪いんじゃないか……そうだ……俺は……悪くない!
 悪くないんだ!

「……わかったよ……よろしく……って言えばいいのかな?」

「ふふっ……その言い方はおかしいとは思うけど、こちらこそよろしくね」

 こうして俺に生まれて初めての彼女ができた。 複雑な気持ちだが、とりあえず学校の外に
逃げ場ができたと思えばいいか……。

 夕日が西に沈みゆくそんな時間帯に生まれて初めての彼女を見つめながらそんなことを
思っていた…………。

 そしてその後ろには怪しい人影が二つうごめいているのを俺は気づきもしないでただ夕日だ
けをみあげていたのだった。

red18
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