説得工作を続ける先輩をどうにか誤魔化して返事は後日するという約束をしてなんとか開放
された。
疲れた……。 一日で特濃ヘンタイに出会ってしまい、俺は疲れていた。 疲れきっていた。
早く家に帰って休みたい。
そうしたいのにどうやら俺にはまだ試練が与えられているらしい。
校門の前に見慣れた奴が立っている。
瑞樹だ。 こちらに気づき何か言いたそうにこちらをちらちら見てくる。
はあ……疲れるな……。 こういう時の瑞樹を無視したり投げやりな態度をすると向こう1
週間は機嫌悪くなるので俺はもうひとふんばりするかと瑞樹に声をかけた。
「どうしたんだ?誰かと待ち合わせか?」
わかっているがあえて聞く。
「あんたを待ってたのよ!今日はどこ言ってたのよ?昼休みも放課後も……!」
お前のことを崇拝するヘンタイさん集団に勧誘されてたんだよ……と言いたかったがやめて
おく。 おそらく俺がそんなこと言ったら瑞樹は烈火のごとく怒り出して一体どこのどいつだ
と言うだろう。
俺が答えなければ答えるまで制裁するだろうし、教えて先輩らに恨みを買うのも嫌なので黙っ
ていることにする。 これで皆幸せに過ごせるのだ……俺以外は。
これ以上悩み事は増やしたくない。
「ああ……ちょっとトイレに居たんだよ今日は調子悪くてさ」
「ふーん、それで?もう大丈夫なの?」
「ああ、なんとか峠は越えたよ」
「なによそれ?意味わかんない」
「わからないか?つまり全部うん…」
「わかった!わかったから!下品な話はやめて!」
何だ……わかってるんじゃないか
「とにかくお腹が痛かったわけね?」
「うむ……そうだな」
その後、まだ微妙に肌寒い家路を俺達は帰り始める。 しかしどうにも調子が狂ってしまい
落ち着かない。 理由は瑞樹が黙りこんで、何か難しい顔をしているからだ。 普段はうるさ
すぎるほどうるさいのに黙っていられると逆に嫌な気分だ。
普段とは違う静かな雰囲気に本当に腹が……というより胃が痛くなりそうで俺は雰囲気を良
くしようと瑞樹に話しかけようとしたその時、
「私、買い物してくるからそこで待っててよ」
瑞樹が急に走り出す。
「お、おい……」
声をかけるが瑞樹はそのまま走り出していってしまう。 なんだよ……急に。
仕方がないのでその場所で待っていると、十分ほどたったところで瑞樹が息を切らして走っ
てくる。
手には小さい紙袋を持って……。
「はあ……はあ……はい、これ」
瑞樹が紙袋から薬瓶を取り出して俺の手に薬瓶を載せてくる。
「うん?なんだこれ?」
「腹痛の薬よ……お腹痛いんでしょ?これ飲みなさいよ」
その珍しい優しさに内心感動しながらふとラベルを見ると頭痛薬と書いてある。
「……なあ、これは笑うところなのか?」
「えっ?何が?……ってなによこれは~!」
「いや……俺に聞かれてもそれは頭痛薬とですとしか答えられないんだけど……」
ガン! 頭に鈍い痛みが走った。 そのまま瑞樹は走り去っていく、人に薬ビンをぶつけて
いって……。
いくら間違えて恥ずかしかったからとはいえ普通、人に瓶を投げるか?
あの軍人も副生徒会長もいったいぜんたいあの鬼姫のどこに惚れたんだ?
こぶになった頭をさすりながらそんなことを道すがら考えていたが、俺みたいな一般人には
理解しがたい何かフェロモン的なものだろうと無理やり納得してそれ以上脳内のメモリーを使
うことを諦めて、家へと帰っていった。