その後俺は根も歯もない嘘を言った罰として駅前にあるアイス屋(店の名は47号屋。アイス
の種類が47種類あるというこの辺では有名な店)に連れて行かれてアイスをおごることになっ
た。
駅前に向かう途中の道で瑞樹がさっきのことをぶつぶつ言ってくる。
「ったく、くだらない嘘つかないでよね!」
「いや実際に瑞樹のおばさんから聞いた……ぶげっ!」
「……だ・か・ら、それが嘘なんでしょ?」
俺のわき腹に正確に肘をいれて鬼が無垢な顔で笑っている。
怖い……。 なぜこの鬼があんなにもてるのか信じられない!
いや……昔から彼氏ができるたびにそう思っていたけれど……。
ふと今日の矢口との会話を思い出す。
そういえば高校に入ってからはまだ誰とも付き合ってないな、 中学の頃は全員とまではい
かなかったが、それでも告白されてきた何人かにはOKをだしていたというのに……。
「なあ……瑞樹って中学の時は彼氏いたよな?」
「……まあね、それがなんかあるの?」
不機嫌そうに言う。 これは地雷を踏むかもしれない。 やや腰を引き気味に聞いてみる。
逃げられる準備は万端だ。
「いや……なんで高校入学してからはまだ彼氏とか作らなくなったのかなって思ってさ、あま
り気に入るのが少なかったのかな……なんて……」
プレッシャーに負けて、語尾が段々弱くなってくる。
「……別に特に深い理由はないわよ。ただいつまでも子供じゃないし、好きでもないのと付き
合ってても仕方ないってことに気づいただけなの」
「そ、そうなんだ……ははっ……」
なんと返せばいいのか解らず、曖昧に笑って誤魔化す。
瑞樹はそのまま47号屋につくまでムスッとしていて、俺は聞かなければよかったなと少し
後悔した。
47号屋に着き、中に入って注文をし、アイスを受け取って出てくる。
その間もずっと厳しい顔をしている瑞樹にいい加減うんざりしてきていると、
「だいたい和樹はどうなのよ?」
ミントのアイスを食べながら、瑞樹がこちらを見ずに声をかけてくる。
「どうって何がだよ?」
「だから、彼女とか作らないの?っていうかできないの?」
目線をあわせずにとんでもないことを聞いてくる。
……なんて嫌なことをきいてくるんだ。
誰のせいで俺が毎日傷ついた男子たちを慰める羽目になってると思ってんだ。
そんなことしてたら彼女なんかできるわけないだろうが! むしろ一部の女子生徒からは斉
藤君は絶対受けだよね(意味はわからないが、そのときの女生徒達の目が妙にギラギラしてい
るところを見るとあまりいい意味で言われてるわけではなさそうだ)とか言われてるんだぞ!
お前のせいで……と直接口では言えないので心の中で叫んでみた。
「いねえよ、というか高校入学してからろくに女の子とまともに会話してないような気がする」
それだけ返すのが精一杯だった。
「ふーん……そうなんだ!まあしょうがないよね~。和樹は地味だから、私くらいしか相手し
てくれる子いないもんね」
そう言ってうれしそうに俺の前をくるくる回りながら笑う。
余計なお世話だ。
いつになったらこんな生活が終わるんだろうと遠い目をして空を見上げた。 空には桜の花
びらがいくつも舞っていてなんとなく気分が上向いた気がする。 まあどうにかなるかなと何
の根拠もなく思ってしまう。
しかしその予感は見事に裏切られることになると気づくのはもう少し先の話だった。